大人も気づかされる、親子で読みたい本 ~生き抜くチカラ

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生き抜くチカラ

ボクがキミに伝えたい50のことば

為末 大

 

陸上のハードル選手だった為末大氏だが、個人的には、現役時代より引退後の方が印象深い。

その為末氏が、人生で大事だと考えていること、子どもたちに伝えたいことをわかりやすく書いた本。

「諦める力」などベストセラーになっている本をいくつか執筆している同氏だが、それらを子ども向けにしたような感じだ。

 

印象に残った言葉をいくつかピックアップする。

 

 

自分に対する「後出しジャンケン」はしない。

あの時ああすればよかった、こうすればよかった、

あの選択のせいで今こんな羽目に陥っている、あの人の言うことを信じなければ…

これはあの時グーを出しておけばよかった、パーを出しておけばよかったと

言っているのと同じということ。

 

後出しジャンケン」というのが何ともしっくりくる。

言われてみればそうだなと。

「今」に集中するしかない。

 

 

「負けグセ」をつけない。

これは自分自身、かなり思い当たる。

最初は一生懸命頑張るが、なかなか結果が出ない。

すると弱気になり、負けたときのためにはじめから勝負しない、

言い訳を考えておく、大事なところで踏ん張らない。これが「負けグセ」。

小さな成功、勝利を積み重ねて自分自身を信頼しようというのが

著者のアドバイス

 

 

「自分にはこの道しかない」なんて思わずに

「ほかの道もある」と気づくだけで、いまがとっても楽になる。

子どもの頃、「無限の可能性がある」、「諦めなければ、必ずできる」、

「自分がなりたいものになれる」、そう言われて、

親や周りの大人に励まされた経験がある人は多いはずだ。

でも現実はそう単純じゃない。

 

どんな子どもにも向き不向きがある。どんなに好きでも上手くできないことはある。

なりたい自分となれる自分は違うことがある。

子どもが○○になりたい、と頑張っているが、なかなか結果が出ない、先が見通せない、

そんな時に、諦めなければ何とかなる、と言い続けるのは無責任だろう。

 

子どもの成長につれて、可能性が狭まってきたり、限界が見えてきたりするのをマイナスとして捉えるとそういうことしか言えなくなる。

そうではなく、その子が人生でどんなことを目標に生きていくか、社会の中でどんな役割を果たしていくか、

どんな貢献ができるか、道筋が見えてくる過程だと捉えれば、「ほかの道」を伝えることに負い目は感じなくなるはずだ。

 

 

シンプルで読みやすく、当たり前だけど日頃忘れている大事なことを思い出させてくれる。

挿絵もいい。温かみや希望を感じる。

疲れているとき、悩んでいるとき、手にとってページをめくれば、その時の自分に必要な気づきが得られそうな本だ。

 

 

生き抜くチカラ: ボクがキミに伝えたい50のことば

生き抜くチカラ: ボクがキミに伝えたい50のことば

  • 作者:大, 為末
  • 発売日: 2019/10/05
  • メディア: 単行本
 

 

↓プライム会員は無料で読める

 

 

グループ分けして練習する理由とは? ~異なる価値観でもそれぞれ楽しむために

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今朝のチーム練、ストレスを感じることがあり、練習中も思わず怒鳴ってしまった…

その理由も含めて、最近感じていることをFBのグループに投稿しようかと思ったが、自転車に乗る価値観が異なるなかで、簡潔に書いて理解してもらえる自信もないし、反論に対応するのも面倒だし(反論はしないけど理解を得られず不満だけ持つ人もいるはず)と考えて結局やめた。

かといって、そのままにしておくとモヤモヤが残りそうなので、一旦吐き出すことと、考えを整理しておくために記事にする。

 

練習の様子

今日はおそらく40人弱はいただろうか、走力に合わせて4つのグループに分けて、走力の低いグループから2〜3分間隔をあけてスタート。

私は3番目のグループ。Jさん、Sさん、Mさん、Iさん、Gさん、私の6名。

最初の登りは私が先頭で曳く。4倍前後でじっくり。

6名の息があっている。登りでは上げても4.5倍ぐらい、平地も極端に速すぎず、遅すぎず、淡々とローテーションが回る。

向かい風が強く、時折突風もあるが、安心して走れる。

Iさんは、腰痛の影響できつそうにしているが、短く曳いて下がるのでついてこれている。

Sさんと私は少し余裕があるので、長めに曳く。上げ下げはないが地味にきつい。

6名が協力して走っているので、最後のストレートまで全員で脚がパンパンになるくらい走りきれるかなと期待していたが・・・

 

途中の登りで2番目に出発したグループを追い越す。

その後の下りでそのまま別々になれれば良かったが、運悪く信号待ちで合流することになる。

2番目のグループの何名かがこちらのローテに入ってくる。とういか大集団になる。

中途半端な曳き、中切れ、人数が増えたことによって横に膨らむ・・・

 

せっかくいい感じだった練習が台無しに。

怒鳴ったのは、邪魔された!っていう感情が大きかったからだろう。

 

 グループ分けして練習するのはなぜか

タイトルについて。

そもそもグループ分けして練習するのは、

  1. 人数を制限することによって安全確保を図る
  2. 走力が近いメンバーで走ることによる練習の質の向上

が主な理由になるだろう。

 

しかし、今日のようなことがあるとどちらも達成できない。

 

安全確保は最優先 

自転車に乗る理由は人それぞれで、擬似レースをして力比べをすることが楽しい、強い人にどこまでついていけるか試したい、というのはありだろう。

ただし、安全確保はどんな場合でも最優先事項でなければならない。

楽しんでこその趣味だが、自転車は公道を使うリスクの高い行為だ。

みんな家族や仕事がある。

車や地域に迷惑をかける可能性もある。

事故を起こしたり、迷惑をかければ練習環境を失う。

楽しむためにはルールを守らなければならない。

 

練習の質の向上 

疑似レース、力試しは、他者の練習を邪魔しない範囲で、ということになる。

日頃のストレス発散やその日の達成感のために、疑似レースでライバルたちと競って楽しむのはいい。私だってそうしたい日がある。

その一方、競技力の向上、レース成績の向上、身体能力の向上のために、真面目に勉強し、投資し、レースに向けてスケジュールを立て、取り組んでいる人もいる。

どちらの練習の仕方も、それぞれの価値観に基づいているわけで、いい悪いの話ではない。

しかし、練習内容が基本的に相いれないものになることが多いので、一緒に走るのは無理がある。

自由は他者の自由を侵害しない範囲で認められる。

どちらの立場でも、それぞれの走り方を押し付けたり、巻き込んだりしてはいけない。

 

まとめ

最後の話は、チームとしてどんな練習をするか、というところで統一された考えがあるわけではないので、はっきり言えないところもある。

 

これまではいろんな考え方があるから、ちょっと邪魔されても受け流していた。

今朝練習中に怒鳴ったことはちょっと後悔したが、邪魔されたり、安全を脅かされたら怒るのは仕方ない。人間だからね。

 

練習に臨む私のスタンスとしては、新インナーゲームにある以下の言葉。

 

真の競争は、協力と等式で結ばれる

 

競争は、ライバルを蹴落とすことではなく、互いに障害を与えあって(競い合って)それぞれの本当の力を引き出すことであり、それは協力である、というような意味。

グループ分けしたメンバーで、協力しながらそれぞれの力を出し切る練習をしたい。

例えば、脚力のある人は長めに曳き、そうでない人は短め、あるいはツキイチで。それぞれがギリギリのところで頑張れる強度を探りながら走る。これを継続できれば、全員がレベルアップできる。練習の質は自然と上がっていく。

 アタックして、ライバルを千切れば、気持ちいいだろう。でもそのライバルは、おそらく次も同じ力でしか対抗してくれない。

結局、自分自身も毎週同じレベルでしか練習できないことになる。

短期的な楽しみをとるか長期的な楽しみをとるか。

やっぱり価値観の話に戻るのか…

 

私自身の練習環境をどう整えるか、しばらく試行錯誤してみよう。

 

rj77.hatenablog.com

 

新インナーゲーム (インナーシリーズ)

新インナーゲーム (インナーシリーズ)

  • 作者:W.T.ガルウェイ
  • 発売日: 2000/07/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 



 

 

MET TRENTAのインプレ 〜様々なシチュエーションで使える万能エアロヘルメット

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METのTRENTA、半年ほど使ったので簡単なインプレ。

主に以前インプレしたOGKのFlairとの比較になる。

 

 

エアロ効果は?

METの公式サイトによると、

イタリアのニュートン研究所で行われた風洞試験では、クローズドエアロヘルメットのマンタHES以上の空力性能を証明。それでいながら頭部とヘルメットの接触面積を最適化し、ラインナップ中最高のエアフローを実現しています。

という説明がされている。

 

が、正直なところ、私のレベルで体感するのはちょっと難しい(笑)

平地を20分走してタイムがどうだったかとか、パワーがどうだったとか、体感がどうだったとか、ちょっと無理だ^^;

 

ただ、長めの下りで、頭に意識を集中させると、これまで使っていたOGKのFlairと比べて、頭にかかる圧が違うのがわかる。

Flairだとスピードが上がるほど頭が押されている感じが強くなるが、TRENTAはそこまで押される感じがしない。

TRENTAは、スピードが上がれば上がるほど、風が抜けていくのがよくわかる。

 

結構涼しい

Flairは空気孔がたくさんあって、涼しいヘルメットだとは思うが、前から入ってきた風はそのまま頭の前の部分に当たっている感じなのに対し、TRENTAは前部から入った風が頭頂部を通り、後頭部から抜けていく。後頭部に風を感じるのだ。結果、頭全体が冷却される。

 

当初、真夏はFlair、それ以外はTRENTAを使用する考えだった。

しかし、長いヒルクライムをしない私の練習環境ではTRENTAの方が涼しく感じることが多く、今年の夏はずっとTRENTAを使った。

 

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↑この後頭部にかけてすぼんでいる形状にすることによって、高いエアロフロー効果を生み出しているらしい。涼しさにもつながる。

 

Lサイズの重さ

カタログ上は265グラム。自分のものは264グラム。誤差はほとんどなかった。

 

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軽量モデルのFlairはLサイズで194グラムだったので、70グラムの増量だ。

ただ、70グラムも違う割にはそこまで重さの違いを感じない。

被りの深さを調整すると、バランスが良くなるからかもしれない。

 

ちなみに、Flairは軽量化のため、削ぎ落とされている部分が多く、若干チープな印象も否めなかったが、TRENTAはさすがイタリアンブランド、細部の仕上げが綺麗だ。

 

まとめ

エアロヘルメットは穴が少なく夏場は熱がこもるものが多いなか、高いエアロ効果を持ちながら、涼しさも期待できるTRENTAは、様々なシチュエーションで活躍できるいいヘルメットだと思う。

最近価格が下がり、カラーも増えた。

MET フラッグシップモデルTRENTAがプライスダウン、2021新カラーも追加 - 新製品情報2021 | cyclowired

MET TRENTA MIPSに新色ホワイトブラックレッドが追加 - 新製品情報2021 | cyclowired

 

国内ではOGKのエアロR1を被っている方が多いが、TRENTAも選択肢として良いのではないかと思う。

  

 

 

 

感染症を理解し、withコロナを考える 〜感染症の世界史

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感染症の世界史

石 弘之

 

新型コロナウィルスの第2波か、感染者数が増えている。

報道は、日々の感染者数が大きく取り上げられるので、ヒステリックに感じることが多い。

客観的な情報を冷静に分析している記事もあるが、あまり目立たない。

情報を冷静に選別するには知識が必要だ。

 

本書は2018年が初版だが、中国が感染症の巣窟になる恐れを指摘している。内容もそれほど難しくなく、感染症を理解するのにいい本だと思う。以下、一部紹介する。

  

  

人類と微生物の果てしない軍拡競争

約20万年前にアフリカで誕生した人類の歴史は、細菌やウィルスとの軍拡競争史にも例えられる。

インフルエンザ、風疹、ヘルペスマラリア赤痢、水虫など、人類はアフリカを出て、生息域を広げ、生活様式を変化させていくなかで、常にそれらと戦ってきた。

 

微生物にとって哺乳動物の体内は温度が一定で、栄養分も豊富な恵まれた環境であり、潜り込んで繁殖するのに適している。

一方、宿主にとって、病原性を持った微生物は厄介な存在だ。感染すると、細胞が傷ついたり栄養分を横取りされて衰弱したり、遺伝子を乗っ取られて細胞がガン化することもある。

そこで宿主は免疫による防御システムを発達させ、微生物を排除するか、懐柔しようと図ってきた。

 

その争いの結果は、以下の4つに分類される

 

1.宿主が微生物の攻撃で敗北して死滅する

これは共倒れとも言える。毒性の強いエボラ出血熱が局所的な流行で収まっているのはこのためだ。

宿主が滅びてしまうと、別の宿主に乗り移る機会が減少してしまう。

微生物にとってもいい結果ではないので、基本的には年月の経過とともに弱毒化する傾向がある。

 

2.宿主側の攻撃が功を奏して、微生物が敗北して絶滅する。

ワクチンによって根絶された天然痘が該当する。これは稀なケースだ。

 

3.宿主と微生物が和平関係を築く。

宿主の体内には、膨大な数の微生物が存在するが、普段は何も悪さをしない。

これらは「日和見菌」と呼ばれている。ただし、宿主の抵抗力が低下すると、日和見感染を起こす。カンジダ症、ヘルペストキソプラズマ症、カポジ肉腫などが分類される。

 

4.宿主と微生物がそれぞれに防御を固めて、果てしない戦いを繰り広げる。

水痘(水ぼうそう)ウィルスは一度感染すると、宿主の神経細胞に永久に潜む

平和共存のように見えて、宿主の体力が落ちて免疫力が低下すると、帯状疱疹を引き起こす。

 

「赤の女王」

人類は、ワクチンや抗生物質を開発し、多くの感染症を抑えられるようになった。

しかし、今日でも新型インフルエンザや風疹などの突発的な流行に依然として脅かされている。

微生物は耐性を獲得し、人類の防御手段をかいくぐる。宿主側は新たな対抗手段を開発しなければならない。

 

このようなイタチごっこは、「赤の女王効果」と言われている。

鏡の国のアリス』で、女王は、アリスに忠告する。

「いいこと、ここでは同じ場所にとまっているだけでも、せいいっぱい駆けなくてならないんですよ」

周りの風景も同じスピードで動いているので、同じ場所にとどまるためには全力疾走を続けなければならないのだ。

宿主が防御機構を備えても感染症が新たな攻撃方法を編み出すので、我々は逃げきることができない。常に防御機構を開発するため、走り続ける必要がある。

 

ワクチンや抗生物質の乱用は耐性菌を増やす

抗生物質によってほとんどの細菌は死滅するが、なかには耐性を獲得するものが出てくる。

この耐性の獲得は親から子へという垂直遺伝だが、非耐性の菌が別の菌から耐性遺伝子を受け取る水平遺伝も起こる。

つまり、菌が耐性を身につけるということは、抗生物質から生き残った耐性菌が増殖するだけでなく、耐性のない菌までも耐性遺伝子を受け取って、耐性菌へと変身する可能性が高まるということである。

 

また、人の体内だけで耐性微生物が生まれるわけではない。

タミフルは、体内で全て代謝されるわけではなく、下水に流れ込む。そして、従来の汚水処理技術ではタミフルを完全に除去することはできないタミフルは、下水処理場をすり抜けて河川に入り込むことになる。

そして、水鳥が水中のタミフル接触すると、体内でタミフルに対して抵抗性のあるウィルスが生まれる可能性がでてくるのだ。

 

微生物への適応としての病気

ワクチンや抗生物質は、ごく最近の話だ。

そもそも人類はワクチンや抗生物質だけで細菌やウィルスと戦ってきたわけではなく、自ら身体を微生物に適応させてきた。

 

赤血球が潰れて鎌形になった遺伝性の病気が、アフリカ、地中海地域、インドなどのマラリア流行地で見られる。

重い貧血症を起こして死亡するケースもあるが、アフリカの一部で患者が30%を超える地域があり、米国のアフリカ系では11%にのぼる。

マラリア原虫は人の赤血球で増殖するが、鎌形赤血球のなかでは生きていけない。

これはマラリアで死ぬか、貧血で死ぬかを天秤にかけた結果、貧血になる方が生存に有利だったということだ。

 

日本人がお酒に弱いのは、微生物と関係があるのではという説もある。

最近の日本人のゲノム解析によると、アルコールを代謝する「ADH1B」と「ALDH2」という酵素をつくる部分が変化し、世代を経るごとに酒に弱くなるゲノムが蓄積されていったことがわかっている。

稲作をはじめた頃の日本人は、水田にいる寄生虫やアメーバに悩まされていたらしく、酒に弱く有害物質を分解できない体の方が寄生虫などを体から追い出すのに好都合だったのかもしれないというのである。

 

他にも、「発熱」は微生物を熱死させるか、自分が衰弱死するかの我慢くらべ、「せき」、「吐き気」、「下痢」は病原体を体外に排出する生理的反応である。病原性O-157に感染しているのに下痢止めを服用すると、毒素が排出されず、死亡率が高まることを知っている人も多いだろう。

  

環境の変化が感染症との距離を縮める

人類は誕生以来つねに病気に悩まされていたが、感染症の流行にさらされるようになったのは、定住化や農業の発達が関係している。

 

初期の定住場所は、農業をするために、ほぼ水辺に限られていた。灌漑のために、よどんで水深の浅い水路が掘られるが、そこは昆虫や巻き貝など病原体の宿主の絶好な住処になり、感染症がはびこる環境を作り出した。代表的なものが、蚊が媒介するマラリアである。また、農業に必要な家畜も感染源となる

 

定住社会が発達し、都市化が進行すると、水の汚染感染症の原因となった。

上水と下水の分離には高い技術が必要で、初期の社会では難しかった。コレラ赤痢チフスなどの消化器系の感染症がしばしば蔓延することになる。さらに、人口が増え、居住地域を増やすために、森林を伐採することで、未知の微生物に晒されるようにもなった。

 

人類の移動による拡散

今まさにパンデミックとなっている新型コロナウィルスは、グローバルな世界だからこそ、これだけ急速に拡散したが、古くはシルクロードも拡散をもたらした

中国と西アジア・地中海沿岸地方を結んだシルクロードは、東から絹、漆器、紙などが、西からは宝石、ガラス製品、金銀細工、絨毯などが主な交易品だったが、同時に、西から東に天然痘や麻疹、東から西にペストをもたらした。

漢王朝の中国は、最盛期に人口が6000万人を超えていたとみられるが、これらの流行で4500万人程度にまで減少し、漢衰退の一因にもなった。

また、コロンブスの新大陸発見により、その当時、先住民と言われる人々約8000万人が南北アメリカ大陸に住んでいたとみられるが、ヨーロッパからもたらされた感染症により、上陸から50年で1000万人に激減している。

 

withコロナ、with感染症

この他にも、ピロリ菌と逆流性食道炎、中国南部が震源地になりやすいインフルエンザ、トキソプラズマによる性格の変化、HIVの弱体化など、感染症ごとの解説も興味深い。

 

冒頭で書いた、中国が感染症の巣窟になる恐れがある理由としては、経済力の向上に伴う移動の活発化大気や水質の汚染による呼吸器や消化器の損傷による感染の危険性相次ぐ食品スキャンダルが挙げられている。

 

本書では感染症の厳しい現実を知ることになるが、だから悲観的になるかというとそうではない。

人類の感染症との戦いの歴史を知れば、「まぁこんなものなのか」と、諦めではないが、覚悟のようなものを持つことができる。

 

感染者の増加を聞くと、不安になるのは仕方がない。ネガティブな情報に強く反応するからこそ、我々の祖先は生命の危険を未然に防いで生き延びてきた。

もっとも、人類は遺伝子による微生物への適応を待たずに、情報や技術を伝達し、ワクチンや抗生物質を作り出し、対応することができるようになった。

 

コロナについても、ヒステリックに対応するのではなく、どう付き合うか、という覚悟が必要だ。

 

   

感染症の世界史 (角川ソフィア文庫)

感染症の世界史 (角川ソフィア文庫)

  • 作者:石 弘之
  • 発売日: 2018/01/25
  • メディア: 文庫
 

 

 

 

真夏のトレーニングにおススメ! ~ウルトラミネラルタブレット

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TOP SPEED ウルトラミネラルタブレット
  

去年までは、夏のトレーニング時のドリンクは、梅丹の電解質パウダーを使っていた。

電解質パウダーは、ナトリウムの量が500mlあたり861mgとほかに類を見ない多さで、かつクエン酸も配合していて、美味しくないけど真夏の必須アイテムだった。

しかし、梅丹が小林製薬の子会社になった影響なのか、商品ラインナップから消えてしまった…

 

ということで、それに代わるものを探していていろいろ試した結果、

現時点ではTOP SPEEDのウルトラミネラルタブレットが一押しだ。

結構いい感じなので、特徴などを書いてみる。

 

 

 

 

ミネラル含有量が多い

 やはりなんといっても、ミネラル含有量の多さがいい。

どのくらい多いのか比較するため、ウルトラミネラルタブレットポカリスエットアクエリアス、それから発熱や脱水時にいいとされているOS-1の比較表を作ってみた(500mlあたり)。

 

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   ポカリスエットアクエリアスは、公式サイトではナトリウム含有量ではなく、塩分相当量として表示されているので、簡易的な計算で出している。

 

 表で見ると、一目瞭然。ポカリやアクエリよりミネラル含有量が圧倒的に多い。

梅丹の電解質パウダーよりナトリウムは少ないが、他の3つのミネラルは超えている。

そして、驚くことに、OS-1よりも含有量が少し多い

 

真夏のトレーニングでは軽い脱水症状になりがちだが、このミネラル含有量は症状の緩和に役立ちそうだ(私自身、今年は脱水症状なし)。

 

大量の汗をかく真夏の耐久レースでは、普通のスポーツドリンクを飲んでいると逆に脱水(低ナトリウム血症)になる可能性があると言われているだけに、ナトリウムをはじめとしたミネラル含有量には注意を払いたい(以下の記事を参照)。

 

参考記事:夏の耐久スポーツ、水分補給と熱中症対策の「新常識」を知っているか?

https://masujiro.cocolog-nifty.com/blog/2015/07/post-6855-2.html

 

クエン酸重曹も入っている

クエン酸は、疲労回復効果や基礎代謝を上げてエネルギーの産生を促すという効果がうたわれているが、さらに、ミネラルの吸収を高めるとも言われている。

 

また、重曹は、乳酸系のエネルギー供給回路を使って、短時間で高いパワーを出す場合の持久力を高める効果が高いという研究があり、疲労に対する耐性を上げると言われている。

(摂りすぎると胃腸に負担がかかるという報告もあり)

 

両方とも含有量は記載されていないが、重曹などは、一般のスポーツドリンクに含まれているのは見たことがないので、ユニークと言えるだろう。

 

携帯性がいい

500mlに2錠溶かすのだが、1錠が小さく、小袋に入れても邪魔にならない。

また、以前別のタブレット型のもので、背中のポケットに入れていて溶けたことがあったのだが、こちらはそれがない。

糖分があまり含まれていないからだろうか、熱に強い。

 

甘さ控えめ

甘さは結構控えめだ。

成分表でもカロリーは2粒で10kcalと低く、糖分が多くない。

それもあって、ライドの後半になっても胃のなかで溜まっているような感じがすることなく、飲みやすい。

 

糖分については、ある程度の濃度があったほうが吸収性がいいということもあるので、最初の1本目では糖分を追加し、2本目以降は胃の状況や体質などを考慮して、糖分の追加量を減らしたり、そのまま飲むという方法も良さそうだ。

 

まとめ

比較的手に入りやすく、1回当たりのコストも121円ということで、ミネラル含有量を考えれば結構お得だ。

真夏のトレーニングで熱中症になってしまうと、体力の回復に時間がかかり、トレーニング効率も落ちてしまうので、小さいことだが、こういったことの積み重ねは大事だと思う。

 

メーカーHP

TOP SPEED / トップスピード |商品紹介|

 

TOP SPEED ULTRA MINERAL TABLET(3g×20粒) TP2

TOP SPEED ULTRA MINERAL TABLET(3g×20粒) TP2

  • メディア: ヘルスケア&ケア用品
 

 

スポーツ栄養学: 科学の基礎から「なぜ?」にこたえる

スポーツ栄養学: 科学の基礎から「なぜ?」にこたえる

  • 作者:寺田 新
  • 発売日: 2017/10/25
  • メディア: 単行本
 

 



 

 

不条理のなかにみる希望 〜自転車泥棒

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自転車泥棒

ヴィットリオ・デ・シーカ

 

ロードバイクに乗っていると、とかく「自転車」という言葉に反応する。

この映画もそんな引っ掛かりから、傑作と言われていたのでなんとなく観た。

最初は全く理解できず…

ところが、今ではお気に入りの映画だ。

ちょっと高いけど、ブルーレイディスク版を購入したほど。

ということで簡単にご紹介。

 

 

 

あらすじ

舞台は第二次大戦で疲弊し、失業者があふれているローマ。

2年間仕事がなかったアントニオ・リッチは、運よく役所のポスター貼りの仕事を得る。

しかしその仕事をするには条件があった。

自転車を持っていることだ。

 

生活に困窮していたアントニオは、自転車を質に入れていた。

困って妻のマリアに相談すると、マリアは嫁入り道具のシーツを質に入れ、自転車を取り戻すお金を用意してくれる。

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妻マリアは強く、美しい


 

無事自転車を取り戻し、リッチ家に流れる幸せな時間。

6歳の息子のブルーノも喜び、自転車磨きをしてくれる。会話も弾む。

そして翌朝、アントニオは初めての勤務にブルーノと意気揚々と出かけていく。

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意気揚々と出発

 

だが、仕事の初日にアントニオを待っていたのは、自転車を盗まれるという悲劇だった。

 

自転車がないとやっとの思いで得た仕事を失ってしまう。

アントニオはブルーノと一緒に必死に自転車を探す。

 

友人と一緒に転売されていないか市場を捜索する →どこにもない

関係者と思われる老人を問い詰める →逃げられる

胡散臭い占い師に相談する →すぐ見つかるか、二度と見つからないかだと言われる(笑)

 

そして運よく犯人と思う若者に街中でばったり会う。

若者を問い詰めるアントニオ。周囲には人だかりができる。

若者は無実だと主張する。周囲も証拠はあるのか聞いてくる。

ブルーノが機転を利かせて警官を呼んでくる。

しかし、警官と若者の家の中を捜索するが何もない。結局、証拠不十分で訴えることはできず、自転車も見つからない。

 

途方にくれる二人。

重い空気が流れるなか、近くのスタジアムでサッカーの試合が行われていた。

そしてそこには大量の自転車が…

 

子役がすごい

この映画の魅力の一つが、ブルーノ役の演技だ。

愛らしく、でもどこかたくましく、そして子どもらしい。

映画全体が暗い雰囲気になりがちだが、ブルーノの動きや表情に癒される。

 

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トリッキーで、一生懸命

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お父さんに抗議

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イケメン!

 

つらいけど、希望はある

最後の5分間にこの映画の魅力が凝縮されていく。

父アントニオのとった行動に対する息子ブルーノの反応。

不条理や非情のなかでの誠実、勇気、絆、愛、それをひっくるめての希望…

 

ハッピーな終わり方ではないし、明確なメッセージはないので、捉え方は人それぞれになるだろう。

だからこそ、余韻も続くし、深く考えさせられる。

 

イタリア、ネオレアリズモ映画の代表作と言われている本作。

当時のアカデミー外国語映画賞も受賞している。

勧善懲悪もの、美しい景色、派手なアクションの映画に飽きていて、人とのつながり、人間の本質、生き方などを考えたいときに観るといいと思う。

 

ちなみに、Amazonプライムでは、英語吹き替えに日本語字幕がふられているものも配信されているが、映画の雰囲気がだいぶ変わってしまうので、元音声(イタリア語)に日本語字幕がふられているものがお勧めしたい。

 

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がんばろう


 

 

自転車泥棒 (字幕版)

自転車泥棒 (字幕版)

  • 発売日: 2018/04/09
  • メディア: Prime Video
 

 

自転車泥棒 Blu-ray

自転車泥棒 Blu-ray

  • 発売日: 2013/11/22
  • メディア: Blu-ray
 

 



 

ストレスは悪者じゃない。 ~ストレスを力に変える教科書

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スタンフォードのストレスを力に変える教科書

ケリー・マクゴニガル

 

緊急事態宣言、休業要請、外出自粛…

4〜5月の新型コロナウィルスの影響はすさまじかった。

普通の生活ができないことで、DVや児童虐待、自粛警察など、ストレスを起因とした問題も発生していた。

 

本書では、ストレスに対する認識を変え、力に変えるための方法が書かれている。

Withコロナでも役立つと思うので概略を紹介する。

 

 

ストレスは害なのか

私たちはストレスについて、ネガティブな考えを持っていることが多い。

「ストレスがたまる」「すごいストレス」「ストレスMax!」

ストレスがあると心身の健康を害するので、避けなければとも思ってしまう。

 

しかし、同じようなストレスにさらされながらも、うまく物事を運べる人もいるし、逃げ出す人もいる。その差が生まれるのはなぜか。

それは、「ストレスの捉え方」に原因がある。

 

ストレスに関しては、人それぞれ先入観や意見がある。

ストレスを感じるたびに、先入観や意見が頭をよぎるのだが、この思い込みの効果は強力で、「マインドセット効果」と呼ばれている。

記憶や、思いがけない状況、誰かの言葉などがきっかけとなって、自分のなかの思い込み(マインドセット)が強化されると、考え方も、感情も、人生に対する向き合い方も、ことごとく左右されるようになる。やがてそれが、健康、幸福、寿命といった長期的な結果にも影響する。

 

そして、マインドセット効果の素晴らしいところは、一度マインドセットを良い方向に変化させると、変化するための取り組みをしたことを忘れてもその効果は持続し、最初は小さな変化でも、次々に変化を引き起こし、いずれ大きな変化(良い意味で)になることもわかっている。

 

ストレス反応にもいろいろある

 ストレスに対する反応というと、心臓が高鳴り、血圧があがり、全身に血が巡るというような「闘争・逃走反応」を想像することが多い。

闘争・逃走反応は、敵に遭遇したとき、生命の危険にさらされたときに、瞬時に行動を起こす際に必要な反応だ。体じゅうの力と意志力が結集され、普段はとてもできそうにないことをできたりする。火事場の馬鹿力もそうだ。

 

だが、ストレスに対する反応はそれだけはない。

チャレンジ反応」、「思いやり・絆反応」というものもある。

 

チャレンジ反応

ストレスはあってもそれほど危険でない場合、チャレンジ反応が生じる。

心拍数が上昇し、アドレナリンが急増、筋肉と脳にはどんどんエネルギーが送り込まれる。

闘争・逃走反応と異なるのは、まず、集中力は高まるが、恐怖は感じないことだ。

また、ストレスホルモンの分泌される割合も異なり、ストレスから回復したり学んだりする力が増強される。

 

思いやり・絆反応

ストレスを感じると、力が湧き出るだけではない。多くの場合、人とのつながりを求める気持ちが強くなる。愛情ホルモンと呼ばれたりする、オキシトシンの働きによるものだ。

オキシトシンが分泌されると、誰かと触れ合ったり、メールを交わしたり、一緒に飲みに行きたくなったり、周りの人の考えていることや感情に気づき、理解する力が強まる。また、大切な人たちへの信頼が深まり、相手の役に立ちたいという思いを強くする。

働きはそれだけではない。オキシトシンは脳の恐怖反応を鈍らせ、体が動かなくなったり、逃げ出そうとしたりすることを防ぐなど、勇気をもたらす効果もある。

 

最終段階は回復

どのストレス反応においても、最終段階は「回復」だ。

体は回復のために様々なストレスホルモンの力を借りる。

ストレスからの回復は、瞬間的なものではなく、脳は数時間かけて神経細胞間の結合を「再配線」し、ストレスの経験を記憶し、学ぼうとする。これはストレスホルモンの働きによるものだ。

 

強いストレス反応からの回復の際には、恐怖やショックや怒りを感じたり、罪悪感や悲しみに襲われたりする。あるいは、安心感や喜び、感謝の念を覚えることもある。

様々な感情を味わえば、経験したことを記憶しやすくなる。このような感情に伴う神経系の反応は、脳の可塑性を高める(可塑性=脳が経験に基づいて自らを改造する能力)。

 

つまり、手に汗をかいたり、誰かに元気づけてもらいたくなったり、起こった出来事を何度も考えてしまうのは、自分自身がストレスにうまく対処できるうように、体と脳が助けてくれているしるしなのである。

 

どのストレス反応が起こるかは自分で変えられる

いつどんなときに、どんなストレス反応が起こるかは、育った環境、経験に影響を受ける。

子どもの頃に命に関わるような病を経験した人は、ストレスを感じたときに人に頼ることを学んでいるため、強いオキシトシン反応を示し、「思いやり・絆反応」が起こりやすい。

反対に、子どもの頃に虐待を受けた人は、ストレスを感じたときに人を信頼してはいけないことを学んでいるので、ストレスを感じたときには、「闘争・逃走反応」が起こって身を守ろうとするか、「チャレンジ反応」が起こって自分の力で頑張ろうとする。

 

また、生まれもった遺伝子もストレスに影響を与える。

 

しかし、重要なのは、経験や遺伝子による影響は決定的ではないことである。

ストレス反応のシステムは適応性に富んでおり、常に最適な対処方法を見つけようとする。

たとえば、「闘争・逃走反応」を示すことが多かった男性が、父親になったとたんにテストステロンが減少し、「思いやり・絆反応」を示すようになったりする。

このような変化は戦略的なものなのだ。

 

さらに重要なのは、ストレスに対する適応策は、永続的なものではないということである。

脳と体は、人生で最も重要な問題に対処できるよう常に変化し続ける

 

そして、ストレスに対する体の反応は自分が望むように変えることができる。

ストレスを感じたとき、脳や体は生物学的に経験から学びやすい状態になっている。

つまり、自分自身のストレスに対する反応の仕方を変えたいのなら、ストレスを感じるたびに、「新しい反応の仕方」を練習すればよいのだ。

 

ストレスをめぐる矛盾

そんなことを言っても、我々はついストレスのない生活に憧れてしまう。

しかし、様々な研究で、総体的な幸福度を評価した場合、もっとも幸福な人たちは、ストレスのない人たちではなく、大きなストレスを感じていながらも、精神的に落ち込んでいない人たちであることがわかっている。

著者はこれを「ストレス・パラドクス」(ストレスをめぐる矛盾)と呼んでいる。

 

これは感覚的に理解できる人が多いだろう。ストレスと生きがいは結びついている

自分の役割にしっかりと取り組み、目標に向かって努力すれば、目的意識を持って生きていけるいっぽうで、ストレスを避けることはできないからだ。

 

ストレスを避けようとすることの問題

ストレスを避けようとすることの最大の問題点は、そのうちに自分自身や人生に対する見方が変わってしまうことだ。生活のなかでストレスを感じることが、なにもかも問題だと思うようになる。マインドセット効果がマイナスに働くのだ。

仕事にストレスを感じれば、「こんな仕事やってられるか」、結婚生活にストレスを感じれば、「こんな夫婦関係は変だ、どうかしている」、子育てにストレスを感じれば、「自分の育て方が間違っているに違いない」、習慣を変えようと努力することにストレスを感じれば、「やっぱり無理な目標だった」と考えるようになる。

さらに、生活のストレスはできるだけ少ない方がいいと考えていると、ストレスをたくさん感じるのは自分がダメだからに違いないと思うようになる。自分がもっと強かったら、もっと頭がよかったら、もっとまともだったら、こんなにストレスを感じなくていいのにと思ってしまう。

 

そうではなく、ストレスと人生の意義や自分の価値観には、切っても切れないつながりがあることを認識する必要がある。

意義深い人生には、ストレスはつきものなのだ。

 

ストレスに強くなるとは?

では、具体的にストレスに強くなるにはどうしたらいいか。

それは、ストレスを感じた時に、「勇気」や「人とのつながり」や「成長」という人間ならではの底力を、自分のなかに呼び覚すことだ。また、ストレスを経験するなかで自分自身を積極的に変えていくことでもある。

 

ストレスを受け入れて勇気を出す

ほとんどの人は、プレッシャーのかかる状態ではリラックスするのがいちばんいい、と思っている。

しかし、数々の実験で示された結果は、その逆だ。

つまり、能力の発揮にはストレスを感じていたほうがいい。

 

能力を発揮するためには、勇気が必要となるが、そのためには、「脅威反応」を「チャレンジ反応」に変える必要がある。

そしてそのためには、自分の個人的な強みを認識するのが効果的だ。

たとえば、挑戦に向けて自分がどれだけ準備を重ねてきたかを考えたり、過去に同じような問題を乗り越えた経験を思い出したり、自分を支えてくれる大切な人たちや、自分のために祈ってくれている人たちのことを考えたりする。

そうすると、考え方がすばやく転換し、脅威がチャレンジに変わる。

 

ストレスを受け入れることで、勇気をふりしぼって、自分の力を信じることができるようになるのだ。

 

いたわりがレジリエンスを生む

ストレスを力に変える二つ目の反応は、「人とのつながり」を求めることである。

ストレスを感じると、人は利己的になると考えがちだが、社会的なつながりを求める気持ちは、闘争・逃走反応と同じくらい強烈なサバイバル反応だ。

子グマたちを敵から守ろうとしているハイイログマの母親や、溺れている子どもを助けようと川に飛び込む父親など、自分自身の命の危険をかえりみずに子どもの命を守ろうとする行動は、何よりも子孫を守るためのものである。

 

「思いやり・絆反応」は、恐怖を弱め、希望を強く持たせ、状況認識能力が高まり、思い切って行動しやすくなる。

これは子どもを守るためだけに現れるのではなく、周りの人を助けようとするとき、体はいつでもこの状態になる。

 

したがって、1日にひとつ、誰かの役に立つための行動をしたり、自分のための目標ではなく、自分よりも大きな目標に変えたりすることで、ストレス反応を「思いやり・絆反応」に切り替えることができる。

 

思いやりと絆を大切にして向き合えば、相手のストレスにさらされても、かえって力が湧く。相手への共感が湧き、進んで助けたくなる。

また、人は自分自身が苦しんでいる姿を人に見られるのを恐れるが、ありのままを見せた方がいい。周りの人も、あなたとの繋がりを感じることで孤独感が和らぐ。そして、あなたの力になりたいと思い、思いやりや絆を深める行動を起こすことで、相手も思いがけない喜びを得ることができる。

 

ストレスで成長する

ストレスを力に変える3つ目は、「成長」だ。

つらい経験から得られるものがある、ということは誰しも感じていることではないだろうか。

もっとも、それは強いストレスを感じたトラウマから得られるものではない。

それは、逆境によって生まれる強さや、苦しみを意義深いものに変える、人間ならではの能力、自分自身のなかから引き出されるものだ。

 

ストレスを成長に変えるには逆境の良い面を見つめることだ。

これは無理に良い面だけを見つめるような不自然なポジティブシンキングではなく、良い面も悪い面も認識するということである。

つらい経験で得たものを振り返ることにより、心臓血管の反応や気分にプラスの効果が現れたという実験結果もある。

そして、逆境の良い面を見つめることは、自制心を高めることも確認されている。

 

いま現在の困難な状況や、最近強いストレスを感じたことを思い出してみよう。

そのような状況を経験したことで何か得たものはあったか、あったとしたらそのおかげで生活にどのような変化が起きただろうか。

「自分の思いがけない強みに気づいた」、「人生はかけがえのないものだと思うようになった」、「精神的な成長を遂げた」、「社会的なつながりや周りの人たちとの関係が深まった」、「新しい可能性や方向性を見出した」

 

自分にとっていちばんつらかった経験を振り返って、あえて良い面を見つめることは、ストレスとの付き合い方を変えるのに役立つ。過去の逆境を受け入れることは、いまの苦しい経験をとおして成長するための、勇気を奮い立たせるきっかけになる。ストレスを受け入れて力に変えるには、そのような態度が肝心なのだ。

 

まとめ

ストレスを力に変えるには、ストレスに対する認識を変え、ストレスに向き合うことによって可能になる。

逆にストレスを悪者扱いして、避けようとすることは、悪循環につながる。

また、ストレスに対する認識を変えることは、はじめのうちは小さなことでも、次々と良い連鎖反応を起こし、好循環が生まれる。

これは人間が環境の変化に対応できるよう進化してきた証と言える。

ストレスや感情、それに伴う反応は、アルゴリズムである。

環境が変われば、アルゴリズムを変えることができるように人間の脳はできているのだ。

 

ストレスから逃げず、どう向き合うか教えてくれる良書である。