栄養素が体内でどのように利用されるかまで考える

超人をつくるアスリート飯

田豊

 

ロードバイクで身体を酷使するようになってから10年以上

年齢を重ねるごとにリカバリーに時間がかかり、40代も半ばを過ぎて、負荷の高い練習の頻度も自然と少なくなってきた。

仕方のないことだが、少しでも抗うべく、また、人より身体が弱いところがあるため、食事、栄養面には気を使ってきた。

 

アミノ酸、タンパク質、ビタミン、ミネラル摂取量などを意識し、分子栄養学、オーソモレキュラー、メガビタミン、糖質制限(ファットアダプト)、グルテンフリーなど、様々な考え方や手法を自分自身の身体で試してきた。

これまでの取り組みで、ある程度成果が出ている部分もあるが、気を遣っている割には物足りない、何かが欠けている気もしていた。

この本に書かれていることは、私がこれまで取り組んできた考え方と異なる部分が多々あるが、経験的に納得できることもあり、考え方の根本を変える必要があるかもしれないと思いはじめている。

 

本書の肝となる部分は以下のところだと感じた。

栄養素が体内でどのように利用されるか、それをふまえて栄養素の接種源をどのように取捨選択すべきかという、いわば「生化学×栄養学」に基づくアウトプットの重要性(P27)

 

具体的なところとして、タンパク質に関する部分を紹介する(一部私見あり)。

激しいトレーニングをしている者にとって、リカバリーのために運動後○○分位内にプロテインを飲む、というのは半ば常識のようになっている。

しかし、接種したタンパク質がそのまま直接筋肉のダメージ回復に使われるわけでは無い。各種細胞や酵素、ホルモンなどの材料にもなる。

本書では、食事から得たタンパク質は「人間用タンパク質」に作り替えてこそ、初めて意味をなすものであり、「人間用タンパク質」をいかに正しく作り出し、正しく働かせるかがタンパク質を論じる上で重要だとしている。

 

一般的に、タンパク質の1日あたり接種目安量としては、体重1kgあたり1gのタンパク質摂取量が必要と言われており、体重60kgの方であれば60gのタンパク質が必要ということになっている。

ところが、体内で1日に新たに作り出される「人間用タンパク質」は230g以上にもおよぶ。差分の170gはどこから?ということになるが、「腸由来」のものが70g、「体内由来」のものが100gほどになるらしい。

腸由来のものは、腸壁から剥がれ落ちた細胞、消化に利用された消化酵素などで、腸内で再吸収される。体内由来のものは、筋肉、血液、ホルモンなどを構成していたもので、全身の細胞内でそのまま再利用されている。

ここが重要なところだが、体内由来のものは、不要になった「人間用タンパク質」をいったん分解し、用途に応じて作り直すということが、一つ一つの細胞内で行われている(再利用・リサイクルされている)ということだ。

つまり、細胞内で行われるタンパク質の再利用・リサイクルをいかにスムーズに行えるよう環境を整えるかが、筋肉の再合成を含めたリカバリーにとってより重要ということになる。

 

再利用を阻害するものとして、例えば、AGEs(終末糖化産物)がある。これはタンパク質と過剰な糖が結びついてできる物質で、タンパク質を変性、劣化させ、本来の働きを失わせると言われている。肌のくすみなどの老化の原因とも言われているが、タンパク質のリサイクルを阻害するからくすみも生まれ、老化するのだろう。

また、牛乳由来のプロテインを飲んで、お腹が張る、おならが臭くなるなどの経験をしたことはないだろうか。

これは消化しきれないタンパク質が大腸の中で腐敗してガスが発生している現象であり、栄養素として無駄というだけでなく、逆に毒素になっている。

最近では腸内環境が悪くなるのを防止するために、乳酸菌などを添加したプロテインもあるが、お金をかけて接種したプロテインを消化しきれないのにさらに乳酸菌が入ることによって普通のプロテインより高価になって…本末顛倒???

(西洋医学的な発想とも言える)

 

タンパク質の摂取量を増やしてもせいぜい100gをちょっと超えられるか、それに対し、体内では170gをリサイクルしている。体外からの100gもいいが、170gをいかにスムーズにリサイクルできるかが、身体作りやリカバリーの鍵ではないだろうか。

 だからこそ、タンパク質を接種することよりも、いかに正しく利用し、正しくつくり出し、そして正しく機能させるかのほうが、はるかに重要なのです。 〜中略〜 アスリートには「タンパク質をしっかりとろう」ではなく「自分のタンパク質を上手に使おう」とアドバイスし、その意味や方法を分かりやすく伝授しなければなりません。(P59)

 

運動してるから体重×2グラムのタンパク質摂取を目指そう!という単純なものではなく、タンパク質が体内でどのように利用されるか、それをふまえてタンパク質の接種源(肉、魚、乳製品、豆類、ナッツ類など)をどのように取捨選択すべきかを考える必要がある。体内でうまく利用できないタンパク質をたくさん摂取しても身体に負担がかかるだけなのだ。

また、必要以上の糖質や、精製された糖質は先に述べたようにリサイクルを阻害する原因になるので要注意である。

 

他に書かれていることとしては、

・肉食(中心)を避けるべき理由

・良質な炭水化物としての玄米食

・共に暮らす仲間のために食べる。ミトコンドリア、腸内フローラ

・炎症のコントロール、良質な脂質の選択

・本物の塩(自然塩)をとる

・ミネラルファスティング

などなど

 

肝となる部分を言い換えると、栄養素の種類や量を計算して食事やサプリメントを摂るだけではダメで、胃や腸でどのように吸収され、活用されるかまで考える必要があるということである。

便秘や下痢を繰り返すような腸内環境ではどんな栄養を摂っても吸収されないし、胃腸が消化しきれないようなタンパク質を摂っても意味がない。胃腸の環境を整えることは最重要事項かもしれない。

 

エビデンスがしっかりしている記述もあるが、著者個人の経験に基づいて書かれている割に断定的な表現もあったりで、少し惜しいところもある。

もっとも、個人的にはエビデンスに拘りすぎるのもどうか、とも思うのでこれはこれで良いかなと。