呼吸の認識が変わる! 〜人生が変わる最高の呼吸法

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人生が変わる最高の呼吸法

パトリック・マキューン著    桜田直美訳

 

運動で苦しいときや疲れを感じたときには、たくさん酸素を取り入れるために大きく呼吸(深呼吸)しよう。

 

これは多くの人があまり疑問を持たずに信じたり、実践していることではないだろうか。

 

この本では、それを否定する。

帯には大きく「深呼吸は体に悪い!」とまで書かれている。

 

一体どういう理屈なのか。

エッセンスを簡単に紹介する。

  

  

体が活用できる酸素量は二酸化炭素が決める

人間の赤血球は、95〜99パーセントの酸素を含んでいる(spo2、酸素飽和度)。

そして、その赤血球に含まれている酸素をどれくらい使えるかは、実は体内の二酸化炭素の量で決まる。

二酸化炭素は、呼吸によって吐き出されるただのゴミのようなものではなく、血中の酸素が体内に取り込まれる量を決めるという重要な役割を果たしているのだ。

二酸化炭素のこの働きを「ボーア効果」という。


二酸化炭素は、いわば酸素を筋肉や体の機関に届ける窓の役割を果たしている。

血中に適量の二酸化炭素があれば、窓は開かれた状態になり、酸素が体内に行き届くようになる。

それに対し、二酸化炭素の量が減ると、窓の開きが小さくなり、酸素が届きにくい状態になるのだ。

 

深呼吸しても血中の酸素は増えない

血液の酸素飽和度が95〜99パーセントというのは、血液が体内に常に酸素を供給していることを考えると、かなり高い数字といえるだろう。

実際、人の体内には必要以上の酸素が存在していて、安静時には75%、運動時には25%が呼気として排出される。

全てを使い切っているわけではないのだ。

したがって、すでに充分な酸素があるのに深呼吸しても血中の酸素飽和度は上がらない。

 

日頃から疲れやすいと感じている人の血中酸素飽和度を測定しても、そのほとんどが、95~99パーセントという正常な値を示すという。

血中酸素飽和度は正常なのになぜ疲れやすいのか。

それは、血中の酸素が足りないことにあるのではなく、血中の酸素がきちんと筋肉や組織に放出されていないことにある。

慢性的な呼吸過多によって、大量の二酸化炭素を放出してしまうと、血中の酸素が体内にうまく放出されず(ボーア効果)、日々の生活での倦怠感や、運動での息切れにつながるのだ。

さらに呼吸過多は、脳の受容体が二酸化炭素に過敏に反応してしまうようになり、より多くの呼吸を求めるようになるため、悪循環につながる。

 

体内酸素レベルの測定法(BOLT)

そう言われると、気になるのは自分の二酸化炭素への耐性(過敏度)や呼吸量だ。

体内酸素レベルテスト(BOLT)を実行すれば簡単に計測できる。

 

テスト前の10分は安静にし、

 

  1. 鼻をつまむ(息を完全に止めて肺に空気が入るのを防ぐためだ)
  2. そのままの状態で、「息をしたい」という最初の欲求を感じるまでの時間を計る(つばを飲み込みたくなったり、気管が収縮するような感じになったりしたら、欲求がでたサインだ。お腹の呼吸筋やのどが勝手に収縮する場合もある)
  3. 欲求を感じた時点でストップウォッチを止めて鼻から手を離し、鼻で呼吸を再開する
  4. 通常の呼吸に戻る

(68ページ)

 

初めて計測すると思ったより低くでるかもしれない。アスリートでも低い人がいるという。

本書では酸素アドバンテージプログラムという数種類のエクササイズを紹介しているが、最終的なBOLTスコアの目標値は40秒だ。

 

BOLTスコアを上げるための3つのステップ

BOLTスコアの上げていくには、次のようなステップを踏んでいく。

 

ステップ1 二酸化炭素のロスをなくす
  • 起床時、睡眠時、つねに鼻呼吸をする
  • あくびをするときや話すときに大きく呼吸をしない。
  • 1日の自分の呼吸を観察する

 

ステップ2 二酸化炭素への耐性を高める
  • 呼吸量が正常になるまで減らすエクササイズを実行する
  • 10秒のスコアを20秒まで伸ばす

 

ステップ3 擬似高地トレーニングを行う
  • 呼吸エクササイズを運動時に取り入れることによって、二酸化炭素への耐性を高めるとともに、酸素が少ない状況への耐性も高める。
  • 20秒のスコアを40秒まで高める

 

以上のようなステップでBOLTスコアを伸ばしていくが、スコアを伸ばすために必要なエクササイズは、特別な器具も不要で、日常に簡単に取り入れるられるものとなっている。

 

鼻呼吸が一酸化窒素を増やす

本書では、起きている時も寝ている時も、つねに鼻呼吸であることを推奨しているが、その理由の一つが鼻呼吸によって一酸化窒素が体内に送られることを挙げている。

一酸化窒素は、人の体内で、肺の中の気道や血管を拡張する働きがあり、心血管システムで重要な情報伝達の機能を担っている。

鼻呼吸をすると、鼻の中で一酸化窒素が放出され、気道から肺に送られるが、口呼吸だと一酸化窒素のメリットを享受できなくなるのだ。

 

一酸化窒素の働きにはほかにも、「高血圧を予防する」、「コレストロール値を下げる」、「動脈の老化を防いで柔軟性を保つ」、「動脈瘤を予防する」、「抗ウィルスや抗菌」などもあり、全体的な健康状態が向上すると考えられる。

かなり重要な物質といえるだろう。

 

鼻づまりの解消法

といっても、日常的に鼻づまりの人にとっては、鼻呼吸をすることはなかなか難しいだろう。

そこで鼻づまりを解消するエクササイズが紹介されている。

 

鼻づまりを治すエクササイズ

・鼻から静かに息を吸い、鼻から静かに小さく息を吐く

・指で鼻をつまみ、息を止める

・息を止めたまま歩けるところまで歩く(中度から強度の息苦しさを感じるまでだが、やりすぎないこと)

・呼吸を再開するときも、必ず鼻で呼吸をしてすぐ静かな呼吸に戻す

・呼吸を再開すると最初の呼吸は通常よりも大きくなるだろうが、そのまま大きい呼吸を続けるのではなく、2回目、3回目の呼吸を抑え、できるだけ早く通常の呼吸に戻すこと

・1分から2分待ち、また先ほどのように息を止める

・長く息を止めていられるようになるためには、最初からがんばりすぎないこと(息を止めている間の歩数は少しずつ増やしていく)

・このエクササイズを6回くり返し、かなり強く息苦しさを感じる状況をつくる

(P98)

 

エクササイズをくり返し、息を止めたまま80歩まで歩けるようになれば、鼻づまりの症状は完全になくなるはずだという。

鼻炎薬にいつもお世話になっている人や耳鼻科でレーザー治療をしても効果がない人など、悩まされている人にはチャレンジしてみる価値がありそうだ。

 

鼻呼吸のメリット、口呼吸のデメリット

さらに、鼻呼吸のもたらすメリット(あるいは口呼吸によるデメリット)としては、一酸化窒素による全体的な健康向上効果によるもののほか、以下のようなものがある。

・口から吸った空気はフィルター機能を持つ鼻を通っていないので、空気中の汚染物質や、細菌、バクテリアがそのまま肺に入る

・吸った空気を適正な温度と湿度にすることができる

・口呼吸では呼吸量が多くなり、大量の二酸化炭素が吐き出される。その結果、酸素の利用効率が低下する(ボーア効果)

・口呼吸は胸呼吸になりやすく、肺の奥まで空気が入って行きにくい。静かに鼻呼吸をすることで自然と腹式呼吸になり、肺の深部まで空気が入っていく。肺の深部のほうが面積が広く、血管も多いため、酸素が取り込まれやすい。

 

低地にいながら高地トレーニングをし、合法的にパフォーマンスを上げる

ここはアスリート向けの情報だ。

低地で高地トレーニング、合法的に、というといかがわしい気がするが、酸素アドバンテージプログラムを実践することで、合法的にEPOエリスロポエチン)の分泌量を増やすことができるという。

 

EPO、と聞くと、自転車乗りとしては、すぐにドーピングを思い出す。

ツールドフランスを7連覇したランス・アームストロングも、EPOに手を出していた。

 

しかし、EPOはそもそも腎臓で自然に生成されるホルモンで、骨髄を刺激して赤血球を増産させるものであり、イコールドーピングではない。

EPOが生成されて、骨髄で赤血球を増産されれば、血液の酸素運搬能力が高まり、最大酸素摂取量(VO2MAX)が高まる。結果、持久力が高まるというのがEPOの与える影響だ。

 

本書では、ウォーキング、水泳、ランニング、サイクリング中に息を止めるエクササイズをすることで、EPOの生成を促すことができると説明している(血中酸素濃度が80パーセント以下にならないよう、パルスオキシメーターの使用を推奨)。

 

普通の社会人アスリートには、高地トレーニングに行く時間はないし、低酸素室を自宅に作るのはコストやスペースの問題あるので、日頃のトレーニングを工夫するだけで高地トレーニングの効果を享受できるのであれば、とても魅力的だ(健康も害さない)。

 

まとめ

本書の内容は、これまでの呼吸に対する認識を変えるものだった。

紹介されているエクササイズについても、今後いくつか試そうと考えている。

 

Amazonのレビューでは、高評価が多いものの、低評価のレビューでは説明が長いことやエビデンスに乏しいといったことが挙げられている。

説明が長いことについては、洋書なのでこんなものかなと思うが、エビデンスについては、一理あると感じる。

説明が長い割には、論理が繋がっていない、あるいは、結論としては正しいかもしれないが、説明して欲しいところが端折られている感じがする。注釈の番号がところどころ出てくるが、本の中に注釈があるのではなく、ネットで確認しないといけないのも、マイナス点だ。

 

だが、一冊の本で全てを説明してもらおうということ自体に無理があるとも言えるので、エビデンスが弱いと感じるところには、自分で調べると、逆に勉強になるかもしれない。いずれにせよ、呼吸に対する認識を変えるという意味ではいい機会になったと思う。