世界のエリートがやっている 最高の休息法
久賀谷 亮
瞑想やマインドフルネスと聞くと、スピリチュアルな印象を持つ方もいるかもしれない。
この本は、イェール大学で脳科学の研究者として実績を積んだ後、アメリカで精神科医として働いている日本人医師が、マインドフルネスの効果を脳科学から説明している。
私たちは、一日なにもしないでボーっとして身体を休めても、疲れがとれないことがある。頭が働かず、身体の動きも鈍い。集中力も続かない…
それは、脳を休ませることができていないためである。
脳には脳の休め方がある。それに有効なのがマインドフルネス。お金もかからず、シンプルかつパワフルな方法だ。
- 脳は「何もしない」でも疲れていく
- マインドフルネスとは何か
- 基本的なやり方
- 行う場合の注意点
- ストレスで体調がすぐれないときにするマインドフルネス(ブリージングスペース)
- マインドフルネスがストレスに効く仕組み
- 怒りや衝動に流されそうなとき(RAIN)
- まとめ
脳は「何もしない」でも疲れていく
人間の脳の重さは体重の約2%だが、消費エネルギーは全消費エネルギーの20%を消費している。
その理由として、デフォルト・モード・ネットワーク(以下、略してDMN)の存在が大きいと言われている。
DMNは、内側前頭前野、後帯状皮質などの複数の部位から構成される脳回路だが、意識的な反応をしていないときにも働くベースライン活動を担っている。
そして、このDMNのエネルギー消費量は脳全体の消費エネルギーのうち、60~80%を占めるそうだ。つまり、何かに集中することなく、ぼーっとしているだけでも、このDMNが過剰に働いていれば、脳はどんどんエネルギーを消費してしまうのだ。
マインドフルネスはこのDMNが過剰に働くのを防いでくれるという。
マインドフルネスとは何か
よく言われる定義としては、
「評価や判断を加えずに、『いまここ』の経験に対して能動的に注意を向けること」
しかし、これではよくわからないとして、本書では、
「瞑想をベースにした、脳の休息法」
としている。
瞑想というと、宗教的なイメージを持ってしまうが、特徴として以下の3つが挙げられる。
1.宗教性を排除→徹底した実用性
2.修行の要素を排除→誰でもできるシンプルさ
3.脳科学アプローチ→客観的に実証された効果
基本的なやり方
1.基本姿勢をとる
・イスに座る(背筋を軽く伸ばし、背もたれから離す)
・お腹はゆったり、手は太ももの上、脚は組まない
・目は閉じる(開ける場合は、2メートルぐらい先をぼんやり見る)
2.身体の感覚に意識を向ける
・接触の感覚(足の裏と床、お尻とイス、手と太ももなど)
・身体が地球に引っ張られる重力の感覚
3.呼吸に注意を向ける
・呼吸に関わる感覚を意識する(鼻を通る空気、お腹の上下動、呼吸の深さなど)
・深呼吸や呼吸コントロールは不要
・呼吸に「1」「2」・・・「10」とラベリングするのも効果的
4.雑念が浮かんだら・・・
・雑念が浮かんだ事実に気づき、注意を呼吸に向ける
・雑念は生じて当然。自分を責めない。
以上をだいたい5分~10分、できるだけ決まった時間にやったほうがいい(脳は習慣が大好き)。
行う場合の注意点
まず、呼吸をコントロールする必要は一切ない。深呼吸も不要。
普段のままの呼吸を感じるだけでいい。
瞑想というと、「意識を無にしなければ!」と思う人もいるかもしれないが、これも勘違い。そもそも人間の脳は「何も考えるな」と言われても、そんなことができるようにはなっていない。
マインドフルネスで行うことは、意識を空にすることではなく、自分自身の感覚や呼吸に並大抵ではない注意を向けることだ。
身体の感覚に意識を向け、呼吸に注意を向けていく。これだけのことだが、おそらく、1分もしないうちに、心のなかに雑念が浮かんでくる。
最初のうちは、なんて雑念だらけの自分なんだろうと参ってしまうかもしれないが、そういうものである。
マインドフルネスは雑念を消すための修行ではない。
大事なのは、雑念が浮かんできたという事実に『気づく』こと(とても重要!)
そのあとは、やさしくゆっくり呼吸に注意を戻せばいい。
また、マインドフルネスの核心は“Let it go”~あるがままであり、「〇〇でなければならない」「××してはならない」といった、一方的に決めつける態度(ジャッジメンタル)にはそぐわない。
「〇分しなければならない」、「雑念ばかり浮かんでダメだ」、こういった価値判断をせず、あるがままを受け入れることに集中することが重要。
ストレスで体調がすぐれないときにするマインドフルネス(ブリージングスペース)
マインドフルネスは、脳の休息だけでなく、ストレス対処法としても有効だ。
ストレスは様々な身体の不調を引き起こす。身体のだるさ、肩こり、激しい腹痛、胃腸の炎症など。
マインドフルネスは、ストレスによる身体への影響に気づき、それを脳(前頭葉と扁桃体の関係性)から改善していく。
まず、やり方。
1.ストレスの影響に気づく
・マインドフルネス呼吸法の基本姿勢をとる
・ストレスの原因になっていることを「1つの文」にする
・その文を心のなかで唱えたとき、心や身体がどう反応するか確認する
2.呼吸に意識を集中させる
・呼吸に「1」「2」・・・とラベリングする
・身体の緊張が緩んでいくのを感じる
3.身体全体に意識を広げる
・注意を全身に広げる(身体全体が呼吸をしているイメージ)
・息を吸い込むとき、ストレスに反応した身体の部位に空気を吹き込むようにイメージし、呼吸するにつれてそこがほぐれていく感じを持つ
・さらに注意を周囲の空間全体へも広げていく
マインドフルネスがストレスに効く仕組み
なぜマインドフルネスがストレスに効くのか。それは扁桃体と前頭葉の関係性を変えることにある。
扁桃体については、以前、うつ病との関連で記事を書いたが、外部の脅威から自分の身を守ることを優先する動物的な本能の役割を担っている。
扁桃体は、天敵などの危険情報を受け取ると、ストレスホルモンの分泌を指示し、ストレスホルモンが分泌されると、血糖値や心拍が上昇し、代謝が高まって全身の筋肉が活性化する。このメカニズムによって、生存競争を生き延びてきたのだ。
ヒトはなぜ病気になるのか - ◎晴輪雨読☆
扁桃体は、外部から一定の刺激を受けると、不安とか怒りといった感情を生み出す(ストレス反応。逃走or闘争。)。通常は、理性である前頭葉が感情である扁桃体を上から抑えつけて鎮静化を図る。
しかし、前頭葉が抑え込めないくらいに扁桃体が過剰に反応すると、交感神経に作用して、激しい動悸や過呼吸などの身体症状が引き起こされたりする(パニック発作)。
これに対し、マインドフルネスに関するいくつかの研究では、3か月以上にわたってマインドフルネスを実践した人の脳内において、前頭葉と扁桃体が上下関係ではなく、より対等でポジティブな関係をつくることがわかっている。両者がよりフラットにバランスを取り合い、調和している状態が観察されているという。
理性的になれ!と言われても、簡単ではない。ストレスの原因を取り除くことができないことも多い(特に人間関係の場合)。
そういう意味では、マインドフルネスは脳自体に影響を及ぼすことができ、自分自身を変えることでストレスに対処する、とても有効な方法といえる。
怒りや衝動に流されそうなとき(RAIN)
もう一つ、ストレス反応に関連して、怒りや衝動に流されそうなときは、マインドフルネスと組み合わせて、以下のステップで対処するといい。
1.Recognize(認識する)→「あ、怒っているな、自分」
・自分のなかに怒りが起きていることを認識する
・怒りと怒っている自分を同一視しない
2.Accept(受け入れる)→「仕方ない。人間だもの・・・」
・怒りが起きているという事実を受け入れる
・その事実に価値評価を加えず、そのまま許す
3.Investigate(検証する)→「なぜ怒ったのかな?」
・怒ったときに身体に何が起きているかを検証する
・心拍はどう変化しているか
・身体のどこが緊張しているか
4.Non-identification(距離をとる)
・自分の感情を個人的にとらえない
・怒りを突き放して「他人事」のように考えてみる
怒りへの対応もそうだが、私の場合、甘いものへの衝動をコントロールするのに、このRAINはとても役立っている。
まとめ
私たちの脳は、未来と過去から来る雑念に振り回されながら、得体のしれないルールや価値観に縛られている。
マインドフルネスにより、「いま、ここ」に注意を向けることは、そうした呪縛から自分を解放するテクニックともいえる。
過去の出来事にたいする後悔が頭を離れない、未来への不安で押しつぶされそう、ストレスを感じやすい、いろいろなことで頭がいっぱいで何をしていいかわからないなど、何かしら行き詰っている方はマインドフルネスを実践してみることをおススメする。
本書は物語形式で書かれていて、比較的短時間で読めるので、マインドフルネス入門としてはいいのではないかと思う。
また、CDブックもあり、こちらは物語形式ではなく、マインドフルネスのエッセンスを説明しているものだが、マインドフルネスを実践するための音源も収録されている。